モルダバイトとは?(概略・歴史)
モルダバイトは、約1500万年前、現在のドイツ南部ネルトリンガー・リース[Google Map]に隕石が衝突した際に形成された天然ガラス。
ネルトリンガー・リースは直径約24 kmの円形の盆地。リース・クレーターとも呼ばれる。
その衝撃で地表の砂や岩が溶融し、ガラス化して高温・高圧の条件で東/北東方向に250~450kmほど吹き飛ばされたのち、冷却されながらチェコの南ボヘミア地方や南モラヴィア地方の他、東ドイツやオーストリアの一部地域に降り注いだ。
地元では「ヴルタヴィーン」とも呼ばれ、主にボヘミア地方で発見されることからその名が広まった。
モルダバイトは宝石としても人気があり、その深い緑色と独特な質感が特徴的だ。
生成メカニズム(科学)
モルダバイトは、単なる隕石の落下ではなく、特殊な条件が揃ったときにのみ生成される。
この現象は「インパクト・メルト」と呼ばれ、隕石の衝突による極度の圧力と熱で地表の岩石が溶け、空中で冷却されてガラス化することで生じる。
隕石が落下するたびにモルダバイトが形成されるわけではなく、巨大な衝突エネルギー、適切な地質構成(特に珪酸塩が豊富な地層)、および地表の適切な温度条件が必要。
原因となった隕石は、直径1.5キロメートルにもおよぶ巨大なもので、その衝撃が周辺地帯に及ぼした結果として、モルダバイトがチェコの広範囲に散らばった。
鉱物データ
モルダバイトはモース硬度5.5-7の天然ガラス。
モルダバイトは主な成分は下記の通り。ただし、産地や生成条件によって成分が異なる。
SiO2(二酸化ケイ素) | 約80% |
Al2O3(酸化アルミニウム) | 約10% |
K2O(酸化カリウム) | 約3% |
FeO(酸化鉄(II)) | 約2% |
MgO(酸化マグネシウム) | 約2% |
CaO(酸化カルシウム) | 約1.5% |
Na2O3(酸化ナトリウム) | 約0.5% |
TiO2(酸化チタン) | 約0.5% |
モルダバイトは隕石ではない
“モルダバイトは隕石”と誤解されることもあるが、隕石の衝突によって生じたインパクト・グラス(テクタイト)であり隕石そのものではない。
詳細は「隕石とテクタイトの違い」にて。
モルダバイト特有の色と形
緑色は酸化鉄(二価鉄)の影響
モルダバイトが美しい緑色をしている理由は、その成分に含まれる二価鉄(Fe²⁺)によるものだ。
鉄分が酸化している場合、通常は赤や茶色を呈するが、モルダバイトの緑色は特にこの二価鉄によるもの。
二価鉄は還元環境下で安定しやすく、モルダバイトの形成環境がこの還元条件を満たしていたと考えられる。
つまり、隕石の衝撃で溶融し空中へ飛散する際に、酸素と過剰に反応せず、冷却されながらも還元状態が保たれたことでこの独特な緑色が生まれたとされる。
独特な形状の理由
モルダバイトは1900年にFranz Eduard Suessによって、表面の小さな穴やしわ状の模様が水の作用によるものではなく、隕石に見られる特徴と似ていると指摘された。 この観察から、彼はモルダバイトを「テクタイト」と呼ぶ特別な隕石起源の物質と考えた。
モルダバイトの独特な形状の理由は、地中水に含まれる二酸化炭素やフミン酸による浸食によって生じたものだと考えられている。
モルダバイトの歴史
古代の使用法
モルダバイトは、古代ヨーロッパでお守りや儀式に用いられていたとされる。
その珍しい色と形から神聖視され、身を守り、特別な力を得るための護符として珍重された。
冷戦とモルダバイト
冷戦時代、チェコスロバキアは経済的に困難な状況にあり、外貨を得るために政府関係者がモルダバイトを海外に供給した。
この時期に多くのモルダバイトが国外へと流出したことで、世界中の鉱物ファンや収集家の注目を集め、モルダバイトの知名度が一気に高まった。
リビアングラスとの関係
また、リビアングラスも同様に、隕石の衝突によって生まれた自然ガラスであるが、モルダバイトとリビアングラスは異なる環境下で生成され、外見や色も異なる。
リビアングラスはツタンカーメンの装飾品としても使用されており、古代の人々はこの2種類のテクタイトをそれぞれの地で神聖視していた。
現代では、どちらも隕石起源の天然ガラスと判明し、併せてコレクションされることも多い。
現代の価値
モルダバイトは、現在宝石として非常に人気が高いが、その希少性ゆえに価値も上昇している。
近年は天然石ブームによる人気も加わり、日本も含め、世界的な需要が高まっている。その深い緑色と隕石の衝突という劇的な生成背景が、収集家や愛好者の心を捉えて離さない。
モルダバイトはチェコのボヘミア地方など限られた地域でしか採掘されず、その供給量は限られている。一方で、希少な天然ガラスとしての魅力からヒーリングストーンとしての人気もあり、多くのコレクターや愛好家にとって高い需要がある。このような背景から、価値が年々高まる傾向にある。
もし本物かどうか気になったら
モルダバイトは偽物も多く出回っているため、入手する際には注意が必要だ。
偽物はガラスや合成石を使って作られ、見た目が似ていても成分や内部構造が異なる。
原石タイプの偽物は、本物よりも鮮やかな緑色で、質感もヌメっとした丸みを帯びたガラス細工のような質感であることが多い。
本物はより渋いオリーブグリーン色で、乾燥した印象があり、繊細で鋭利な細部を持つものが多い。
簡易な方法として、内部に気泡があるかどうかを確認する手段もあるが、最近では偽物にも気泡がある場合があるため、最も確実なのは専門機関による鑑別だ。
蛍光X線検査などを用いることで、加工品であっても天然ガラスかどうかを確かめられるため、本物かどうかを気にするならば、専門機関に依頼するのが安心だ。
見事本物であった場合、下記のような鑑別結果が返ってくる。
鉱物名:天然ガラス
宝石名:モルダバイト