小惑星帯の「隕石の母」
小惑星ベスタは、火星と木星の間に位置する小惑星帯で4番目に発見された大きな天体で、隕石界では「隕石の母」とも呼ばれる特別な存在です。
その特徴的な地質と構造から、地球に届くHED隕石(ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイト)の母体とされています。これにより、ベスタは隕石収集家や研究者にとって非常に注目される天体です。
HED隕石の由来
HED隕石とは、ベスタの火山活動や衝突によって生まれた火成岩の破片が地球に飛来したものです。それぞれの名前の由来と構造は以下の通りです:
- ホワルダイト(Howardite):地殻やマントルの破片が混ざり合い、衝突でできた多様な構造を持つ隕石。
- ユークライト(Eucrite):ベスタの地殻にあたる部分で、過去の火山活動から生じた溶岩が固まったもの。
- ダイオジェナイト(Diogenite):地殻の下層やマントルの部分で、深部で結晶化した鉱物を含む隕石。
これらの隕石は、地球の火山岩に似た成分を持つため、ベスタの成分を知る上で重要な手がかりとなっています。
HED隕石については下記もご覧ください。
ベスタの地質と火山活動
ベスタは太陽系初期の約45億年前に形成され、初期には火山活動が起きていたことが確認されています。NASAの探査機ドーン(Dawn)が2011年に周回軌道から詳細に観測したデータによって、ベスタの表面には溶岩の痕跡や火成岩が広がっていることがわかりました。
ただし、現在では火山活動は完全に停止しています。
小惑星という小さな天体であるため、内部の熱を保持できず、冷えきってしまったことが原因と考えられています。
HED隕石が多く地球に届く理由
HED隕石が月隕石や火星隕石に比べて地球で多く流通するのは、以下の理由によります:
- 距離が近い:ベスタは地球に比較的近い小惑星帯にあるため、地球軌道に入りやすい。
- 衝突頻度:小惑星帯では絶えず衝突が発生しており、ベスタも他の小惑星との衝突で破片が飛び出しやすい。
- 軌道の安定性:ベスタから放出された破片は、木星や火星の重力の影響を受けながらも、地球軌道に乗りやすい特性があります。
- 比較的小さい:ベスタは火星や月よりも小さいため、破片が母天体から脱出するエネルギーが少なくてすみます。
これらの理由から、地球にはHED隕石>月隕石>火星隕石の順で流通量が多くなっています。
探査機ドーンによる発見
ベスタについての理解が深まったのは、NASAの探査機ドーン(Dawn, 夜明けの意味)の功績が大きいです。ドーンはイオンエンジンを使ってベスタを周回しながら、以下の観測機器でデータを収集しました:
- フレーミングカメラ:表面の高解像度画像を取得し、ベスタの地形や構造を詳細に把握。
- 可視赤外分光計:鉱物の組成を分析し、HED隕石との一致を確認。
- ガンマ線・中性子検出器:表面下の元素分布や氷の痕跡を明らかに。
これにより、ベスタがHED隕石の母体であることが確認され、隕石収集家や研究者にとって欠かせない天体として位置づけられています。
小惑星ベスタの3Dモデル
小惑星ベスタの3Dモデル
(提供:NASA)
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※背景はイメージです。ベスタとの比率や位置は考慮されていません。
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